戸籍

離婚に際して、財産分与や慰謝料の事が頭を占めていて、見落としがちになってしまうのが、苗字(「姓」)や戸籍の問題です。

そこで、以下のA女さんの例から、離婚や離縁と、苗字・戸籍の関係について考えて行きましょう。

「離婚することになったが、職場で旦那の苗字「α」を使っている。このままαという苗字を使い続けたいが、旦那からα家の人間でなくなる以上、うちの名を騙るなと言われている。ちなみに結婚前はβという苗字だった。私はαを名乗り続けることができますか。」(A女)

この点、A女さんは、手続きを期間内にすれば、苗字「α」を使い続けることができます(後述)。

A女さんの旦那さんとしては,離婚しておきながら,なぜA女さんがα家を名乗れるのかと不愉快に思われるかもしれません。
しかし、奥さんが離婚後名乗られるαという苗字は、旦那さんと同じ苗字であっても、概念上は別の苗字ということになります。
日本に一番多い「佐藤さん」が、同じ苗字であっても、それぞれが別の佐藤家の家系を持っているように、旦那さんと同じ苗字を奥さんが名乗っていても、それは旦那さんとは別の家系になると考えていただければ良いと思います。
したがって、A女さんが名乗っているαというのは、旦那さんのα家を表すものではなく、旦那さんが不快に思ったとしても、A女さんがαを名乗ることは阻止出来ないのです。

では、「姓」や「戸籍」について、離婚後どのような手続きの流れで、変更されていくことになるのかを見ていきましょう。

  • まず、戸籍については、離婚して、「離婚届」を提出し、あとの手続きを市役所に任せておくと、市役所はA女さんを結婚前の戸籍に戻し、A女さんの苗字をαから、Aさんが戻る戸籍の「筆頭者」(大抵お父さんです)の苗字であるβに戻します(民法767条1項、771条、戸籍法19条1項本文)
    ちなみに、その場合の旦那さんの戸籍には、A女さんについて「除籍」と追加記載され、離婚によってA女さんが戸籍から抜けたことが明示されます。

  • 次に、A女さんの結婚前の戸籍(両親の戸籍)が消滅していたとき(父母ともに死亡していた時)には、A女さんは無戸籍者になるのかというと、そうではありません。
    その場合、新たにA女さんを筆頭者とする新戸籍が編成されることになります(戸籍法19条1項ただし書き)。
    この時の注意が、A女さんの新戸籍の苗字にあります。
    そのまま何もしないでいると、A女さんはαの苗字のまま新戸籍が作られてしまいます。前の例でA女さんがβ姓に戻ったのは、A女さんが結婚前の戸籍に戻ったので、そこの戸籍のルールに従い、姓をβに変えたからなのです

  • もし、A女さんが亡き父母の苗字を名乗りたい場合は、A女さんはβの苗字で新戸籍を作らなくてはなりません。

  • なお、A女さんが、
    「結婚するときに親に勘当されたから、前の戸籍には戻りたくない」
    等の事情をお持ちの場合も、新戸籍は、「申し出」により作れるので(戸籍法19条1項但書)A女さんは新しく戸籍を作ることになります(戸籍法19条1項ただし書き)。
    その場合、αを名乗るかβを名乗るかは、A女さんが決定できます。
    この時注意しなくてはならないのが、離婚届けを出す際、新戸籍編成の申し出をする必要があるということです。なぜなら、前述した②・③と異なり、A女さんの以前の戸籍は消滅していないので、放っておくと法律通りに前の姓に戻されてしまうからです(民法767条1項、771条、戸籍法19条1項本文)
    離婚届出用紙に「新しい戸籍をつくる」というチェック欄があるので、そこに忘れずチェックをしましょう。

  • 最後に、A女さんが、αの名前を名乗り続けたい場合には、離婚日から3か月以内に、「離婚の際に称していた氏を称する届」を忘れずに行ってください(市区町村役場)。
    3か月を超えても申請はできますが、その場合は裁判所の許可が必要になってしまいます。許可と言う以上、認められるとは限らないものです。

  • A女さんが、αの名前を名乗りながら、父親の戸籍に戻ることはできるでしょうか?
    答えは、できません。
    戸籍というのは、「市区町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子」ごとに作られるからです。
    したがって、A女さんが父親β氏と別の姓であるαを名乗りながら、父親の戸籍に戻ることはできないのです(戸籍法6条本文)。

  • なお、注意が必要なのは、A女さんにお子さんがいて、お子さんを引き取る際に、自分と同じ戸籍にしたいと考える場合です。
    現在の戸籍法では、一つの戸籍に、3世帯(親・子・孫)を一緒に入れることができません(戸籍法6条本文)。
    したがって、A女さんが両親の戸籍に戻った時には、お子さんが同じ戸籍に入れないことになってしまいます。
    そこで、お子さんが居る場合にも、A女さんはやはり、戸籍を新設してA女さんを筆頭とし、お子さんも所属する戸籍を作らなくてはいけません。

お子さんがいる場合で注意が必要なのは、離婚して、子の親権を自分にしただけでは、子どもの戸籍・姓は当然には変わらないということです。
「子の氏の変更許可申立て」を裁判所に行い(1~2日位で許可はおります。但し土日祝日を除く)、許可書を持って市役所に行き、A女さんを筆頭とする新戸籍に「入籍」する手続きを取ってください。

以上、姓を変えることが多い女性視点で書きましたが、A女さんが婿入りして名前を変えたB男さんの場合でも同じことが言えます。

他にも、戸籍と姓に関しては、養子縁組していた場合など、どのように扱えばよいのか難しいことも多いかと思います。上記は離婚と戸籍が問題になる一部分を切り出しただけの記述ですので、「上の内容に当てはまらないんだけど……」と思われる場合や、「もうちょっと分かりやすく、私の事例にあてはめて説明して欲しい。」と言うときは、弁護士法人萩原総合法律事務所(茨城県筑西市・常総市・ひたちなか市)まで一度ご相談くださればと思います。

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